5月の法話 「人の短を道(い)うなかれ」
新緑が目に染みる5月となりました。新緑は目にだけでなく心にも染み渡り清々しい気持ちになります。
仏教では心を落ち着けて物事に耐えることが、悟りへの大切な心構えであると説かれ、それを「平常心」と言っています。
最近のわが国では、平常心をなくして「キレル」、あるいは「ムカツク」若者が多くなりました。「キレタ」、「ムカツイタ」からというだけで、かわいい自分の子どもに暴力を加えたり、人を刺し殺す悲しい事件が後を絶ちません。
若者が「キレル」、「ムカツク」のは、もちろん我慢することが出来ないからなのですが、その原因には家庭における甘やかしや食生活、社会構造などが関係すると言われています。
どんな人でも、時として他人に腹が立つ時がありますが、心を落ち着けてあらゆることに耐える努力をしなければなりません。
弘法大師の真筆の書に、「人の短を道(い)うなかれ、己(おのれ)の長を説くなかれ『崔子玉座有銘断簡』」、(すなわち人の短所を指摘するな。また、自分の長所を自慢するな。)の言葉があります。
私たちは他人の失敗や欠点について興味を持つ傾向がありますし、また、成功すると快(こころよ)く思わない感情もあります。
自分のことは自分が一番よく知っていると言われますが、それは自分の短所の方であり、長所については案外気が付かないことが多いのかもしれません。だから、常に自分と他人の持つ短所ではなく、長所を見るように努力することが大切なのです。